スピーチ・ステートメント・メディアインタビュー
「日豪経済協力: 試練の時をともに乗り越えるために」
ウェイン・スワン財務大臣
2009年3月30日
スピーチ DFAT_20090330
ご列席の皆様
本日、再び日本を訪れることができたこと、また今回、財務大臣となり、初の東京訪問が実現したことを大変嬉しく思います。
先ほどまで、何人かの主要投資家の方々と、それぞれご関心をお持ちの具体的な問題について大変実り多いお話をして参りました。このスピーチの後にも、皆様のご質問に答え、個人的にお話しできることを楽しみにしております。
さて、本日のこの席におきましては、主にどなたも抱いておられるに違いない懸念、すなわち世界的金融危機と、この克服に向けて日豪両国にできることは何かということをテーマにお話ししていきたいと思います。
私は昨年6月、大阪で開催されたG8アウトリーチ会合に参加しましたが、世界経済はその後、劇的に悪化しました。このごく短期間に、IMFによる2009年の世界経済成長率の見通しは、プラス3.8%からマイナス0.5~1%の間に下方修正されました。
貿易依存度の高い日本経済が特に大きな打撃を受けていることは、改めて指摘するまでもありません。オーストラリアもまた、主要貿易相手国の経済の急速な悪化と物価下落の影響により、困難な時期に直面しています。実際、この世界的景気後退の難を逃れた国は一国たりともありません。
日豪両国の政府は、世界的不況による最悪の影響から自国の経済と国民を守るために、責任の及ぶ限り可能なあらゆる策を講じています。この両国の政策に間違いはありません。
本日、私がここで強調したいことは、これは簡単なことではありませんが、私たちには両国の経済を好転させることが可能だということです。
国内景気刺激策や財政改革などに見られる両国の断固たる行動が、国民の将来的発展と繁栄に資することは間違いありません。しかし、これが真に実現されるためには、日本とオーストラリアを含めた全世界すべての国が一丸となって、危機に立ち向かい、より良い国際金融システムを築いていくことが重要です。
私は、日豪両国が力を合わせることで、世界をこの目標の達成に導くことができると確信しています。経済規模こそ異なれ、オーストラリアも日本も、質の高い構想や強力なリーダーシップを示すことができる国です。こうした能力を持つ国には、世界の運命を大きく動かす力があります。
最も充実した時期にある日豪二国間関係
ご承知の通り、オーストラリアと日本には、共通の利益のために協力し、ともに繁栄してきた長い歴史があります。過去何十年もの間、日本の経済成長と対外投資はオーストラリアの主要輸出産業の発展を支え、アジア太平洋州全域においても何十億もの人々の生活水準の向上に寄与してきました。
このように地域と世界の繁栄に貢献してきた日本経済は、この地域と世界の危機回復においても、同様に極めて重要な役割を果たすに違いありません。オーストラリアは、日本のパートナーとして地域と世界の繁栄にともに貢献することを望んでいます。
私は昨年11月に麻生総理が述べられた、「日豪関係は、今、歴史的に見て、最も充実した時期を迎えている」という言葉に深く賛同します。今回の世界的景気後退により、日豪関係は歴史的に見て「最も重要な時期」を迎えています。
日豪両国は、共同努力により、G20はもちろん、APECや東アジア首脳会議など、地域的に重要なフォーラムに多くの貢献をしてきました。さらに、この地域の国々に緊急国際収支支援を行うためのチェンマイ・イニシアティブに対するオーストラリアの強力な支援にも、共同努力の姿勢が現れています。オーストラリアは、支援の要請があればいつでも対応できる準備を整えています。
またオーストラリアは、東アジア首脳会議において、ASEAN+3で進められている重要な作業との整合性がより高く、より強固な金融プロセスの構築を進めるなど、域内金融市場の強化に向けてさらに大きな役割を担っていく用意も十分に整えています。
グローバルな問題にはグローバルな解決が必要
ご列席の皆様、このようにすでに多くのことがなされています。
しかしながら、まだなすべきことは多く残されています。この危機の原因はグローバルなものであり、したがって対応もまた、グローバルなものでなければなりません。オーストラリアが国際的な解決策を見出すために奔走する理由もそこにあります。
昨年、ワシントンで開かれたG20首脳会議も、世界的な協調のもとでの危機回復プランを立てるために、ケビン・ラッド首相と私が中心となって開催を呼びかけました。このサミットは、世界的景気後退への対策としてはかつてない規模の世界的行動へとつながりました。
ところが事態は急速な展開を続け、対応も急を迫られる状況が続いています。G20のプロセスも進展し続けねばならないのです。
二週間ほど前、与謝野馨財務大臣と私は、他のG20諸国の財務大臣ならびに中央銀行総裁との会合に出席し、今後の方針について話し合いました。そして「成長が回復するまであらゆる必要な行動をとる」ことで、成長と雇用を支援することに合意しました。
また、米国と欧州の実に多くの銀行にいまだ蔓延する不良資産の処理には、ラッド首相と英国政府が共同提唱した枠組みをもって取り組むことが決定されました。
私たちは、IMFの抜本的改革と資金基盤の増加にもコミットしました。オーストラリアは、IMF改革に関するG20作業部会の共同主催国(南アフリカ共和国との共催国)でもあり、この分野で前進が見られたことを特に嬉しく思っています。また、G20は、この危機の発生を許すことにつながった金融規制の不備を正すため、必要とされる措置に重点的に取りかかっています。
G20に向けてのオーストラリアの優先事項
このような土台が整った今、世界の注目を集めているのは今週木曜日に開催されるG20首脳会議です。今回のサミットの焦点が、不良資産問題の処理、IMF改革、財政刺激策の推進や、貿易・金融保護主義に立ち向かうことにあることは明らかです。
不良資産の処理には財務大臣間ですでに合意されている枠組みの実施が不可欠であり、また、実施される改革は新興および発展途上市場にも恩恵をもたらさねばなりません。
景気刺激策も等しく重要な問題です。
2009年、世界中の政府は、世界のGDPの2%にあたる十分な景気刺激策を行うことに合意しました。この刺激策は全ての経済や雇用を支えるためのものです。IMFは、これらの世界的景気刺激策により新たに約2千万の雇用が創出されるとになると試算しています。世界で2千万の失業者がなくなるのです。
また、2009年に合意されたもの以外に、どのくらいの追加刺激策が必要となるのかをIMFに試算してもらうことにも合意しました。国内的刺激策の推進と同時に、IMFの資金基盤も、年末前の大幅な増強を含めて、危機発生前の少なくとも二倍レベルに増加させねばなりません。
これに関して、私は、IMFの融資能力の増強に向けて最大1,000億ドル相当の融資を決定した日本の寛大なる措置を特に歓迎します。これについてはその後EUからも同額の拠出が得られています。新規借入取極(NAB)の大規模な拡大と増額、および出資割当額(クォータ)の見直しの加速によって、IMFの資金基盤を中期的、長期的に確保しなければなりません。IMFの正統性と有効性は、出資割当額と議決権持分の配分を加盟国の経済力に応じた形に再編できるかどうかに大きくかかっています。オーストラリアのこの考えに変わりはありません。
最後に、オーストラリアは、G20諸国の首脳が貿易・金融保護主義に立ち向かう意思を表明することを望んでいます。
保護主義政策が世界経済に悪影響を及ぼすことは疑いようもなく、危機をさらに深めるリスクを孕んでいます。
世界的景気後退期におけるオーストラリア
世界的問題の是正は、国内措置の効果を飛躍的に向上させます。日本政府同様、ラッド政権も、過去に類を見ない世界的景気後退を前に、国内経済への衝撃緩和に努めてきました。また、私たちは、より力強い回復と生産性の高い経済成長を目指し、この危機を克服するために長期的将来への投資も怠っていません。
先にも申し上げました通り、オーストラリアも景気の世界的影響を免れられなかったことは事実です。しかしながら、オーストラリアは他国に比べ、対処しやすい状況に恵まれています。
昨年第4四半期のオーストラリアの国内生産は、先進国および東アジア地域の大半の国々と同様に、大幅に減少しましたが、その落ち込み幅はほぼすべての先進諸国に比べて遙かに小さいものでした。この回復力は、数々の要因から来ています。
まず、数十年にわたる構造改革により、オーストラリア経済が外部からの衝撃に強い回復力に富んだ構造となっていたことが挙げられます。中でも、変動相場制の為替レートは特に重要な緩衝剤となっています。資源通貨である豪ドルが、世界経済の好調期には上昇し、低調期には下がる傾向にあるからです。
住宅市場の状況も、相対的強さの一因です。米国とは違い、オーストラリアは過剰な住宅ストックを抱えていません。近年では逆に、新設住宅着工戸数が人口増加に追いつかない状況が続いていました。
その結果、米国や欧州で住宅価格が急落する中においても、オーストラリアの市場は持ちこたえています。加えて、オーストラリア政府は住宅ローン市場の競争力を健全な水準に保つため、格付AAAの住宅ローン担保証券(RMBS)に80億豪ドルの投資を行いました。この資金の半分は、承認された預金等受入金融機関以外の機関への投資に充てられます。
更に、オーストラリアの金融システムが健全であることも重要な要因です。実際、スタンダード&プアーズ社の格付けでは、世界で最も健全な銀行11行の中にオーストラリアの4大銀行が入っています。
他国と同様に、オーストラリアでも、金融システムの機能回復と安定化を支援するため、一連の策を講じてきました。その一環として、オーストラリア政府は銀行や、住宅金融組合(ビルディング・ソサエティ)、信用金庫(クレディト・ユニオン)の預金と資金調達に対する政府保証を行っています。
オーストラリア準備銀行(RBA)は、先週発表した年央の金融安定概況(ファイナンシャル・スタビリティ・レビュー)で、「これらの対策により、預金者の信用が維持され、オーストラリアの銀行が引き続き金融市場からの資金を順調に調達できるようになった」と述べています。
2月現在、今年発行された政府保証付き銀行証券のうち、オーストラリアの主要銀行による発行額は世界全体の10%を占めようとしています。これは米国、フランスに続いて第3位の数字です。過去最大額の政府保証付き銀行証券が二度もサムライ債(円建て外債)市場で発行されていることからも、日本におけるオーストラリアの銀行と政府保証に対する信用度の高さがわかります。
この資金が、オーストラリアの雇用と経済成長の維持に必要不可欠な、銀行による企業、家計への貸出の継続を可能にしているのです。要するに、オーストラリアは他の多くの国々が直面しているような重大かつ緊急な財政的逼迫状況にはなっていないのです。
オーストラリア政府は、財政、金融両面において緊急かつ断固たる策を講じ、世界的危機が国内経済におよぼす最悪の影響を回避してきました。オーストラリアの中央銀行であるオーストラリア準備銀行(RBA)も、かつてないスピードと下げ幅で金利の緊急引き下げを行いました。
ここで重要なのは、オーストラリア経済には、必要ならばさらに金利の引き下げを行う余地があるということです。多くの主要先進国の中央銀行には、もはやこのような余裕は残されていません。また、オーストラリアの金融政策を実施するメカニズムは多くの先進諸国よりはるかに効率的です。
オーストラリア政府は、過剰債務に陥ることも、政府の中期的財政枠組みを逸脱することもなく、2009年GDP比2.4%および2010年比1.4%の合計額に及ぶ大規模な景気刺激策を実施してきました。これらの資金の大半は、職能開発を含めた重要インフラ投資に回されます。これにより国の長期的繁栄の基盤が得られると同時に、今後2年間にわたるオ―ストラリア経済の活性化が見込まれます。
私が州政府債に暫定的に連邦政府保証を与える決定をしたのも、金融市場の混乱期にあっても、重要な経済インフラへの投資は政府すべてのレベルにわたって維持されていくべきだという信念から来ています。
ここで重要なことは、オーストラリア政府は景気回復に遅れを招くことなく予算を黒字化し、債務削減をしていく道を示した明確な計画があるということです。この持続可能性の高い財政出動を受けて、スタンダード&プアーズ社は最近、オーストラリアの長期外貨信用格付を前回同様AAAとする発表をしています。
また同格付機関は、オーストラリアのバランスシートには現在見込まれている赤字を吸収するだけの余裕があるとも言及しています。オーストラリア政府の予測では、歳入の大幅な減少見込みと景気刺激策による財政支出の増大を考慮に入れても、政府の純負債は2011-12年度までに対GDP比5%をわずかに超える程度に留まります。
一方、OECD諸国の純政府債務額の平均は、対GDP比約45%のレベルにあります。
オーストラリア政府は現在、週2回、国債を発行し、5~7億豪ドルで落札されています。オーストラリア国債の市場は投資効果、流動性ともに高く、国内や海外の多くの投資家を引きつけることは間違いありません。オーストラリア政府は与野党とも常にオーストラリア経済や公債への海外投資を歓迎しています。
オーストラリア国債には、国の経済の活力と全般的に健全な政府財政ポジションに裏づけられた最も信用の高い債券であり、利回りも良いという特徴があります。
更に、オーストラリア政府は財務省債券(トレジャリーノート)を発行する予定です。これは6ヶ月未満の短期ディスカウント債で、得られた資金は国のキャッシュマネジメントに充てられます。2008-09年度は100億ドルまで発行する見込みです。翌年度以降は必要に応じた額の発行となりますが、流動性の維持という観点からも、必要最小限の額となると考えられます。
結び
このスピーチを締めくくるにあたり、オーストラリアが情勢に即した正しい政策を取ってきたことを、今一度申し上げておきたいと思います。
しかしながら、今回の危機は国内対策だけで解決できるものではありません。解決のためには、断固とした行動が求められるだけでなく、この行動が国際的協調の中で行われる必要があります。オーストラリアも日本も、これを理解しています。
両国は共に、不良資産の排除、より強固な世界金融システムの構築、経済刺激策、アジア太平洋州圏の地域的強化、新興市場のニーズに対する配慮、自由貿易保護といった目標達成に向けて、積極的な行動を取ってきました。
今週開催されるG20首脳会議は、世界経済を回復への軌道に乗せ、景気後退の深刻化、長期化に歯止めをかける良い機会となります。
現在、私たちが置かれている状況と目の前にある機会を見比べれば、オーストラリアにとっても日本にとっても、世界的義務を果たすことが自国に利益をもたらす最善の方法であることは明らかです。
ご清聴ありがとうございました。
(原文は英語)