オーストラリア大使館東京

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スピーチ・ステートメント・メディアインタビュー

「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)講演」

ケビン・ラッド豪州首相

2009年5月29日
スピーチ DFAT_20090529

アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)は初回会合の開催からわずか7年間で、アジア太平洋地域において最も優れた防衛・安全保障対話の場としての地位を築き上げました。

本会議の成功裏の発展は、ある意味でシンガポール自体の域内における台頭を象徴するものです。

43年前の独立時には、新しい政体としてその存続を危惧する向きもあったシンガポールは、今日、影響力を有する繁栄した国家へと成長を遂げました。

同国は今や、地域・世界貿易の主要な中心地、輸送面での世界的拠点、及び国際金融の中心地のひとつとなっています。

時に深刻な民族対立が見られる本地域において、シンガポールは平和な多民族社会を維持しています。

本地域において安定と効果的な外交を力強く推進し続けるシンガポールは、この定期的意見交換に最適の場所です。

ご列席の皆様。今日各国政府の念頭にあるのは、世界金融危機です。

一年前、国際通貨基金(IMF)は3.8パーセントの世界経済成長を予測していました。

しかし今月初め、IMFは2009年の世界のGDP成長率見通しをマイナス1.3パーセントと発表しました。これは余りにも大きな変化です。

世界経済のマイナス成長は、戦後初めてとなります。

当初の金融危機は、今や経済危機、雇用危機をもたらしています。国によっては社会的危機、政治的危機に発展しており、一連の新たな安全保障上の危機が将来全面的に引き起こされる可能性さえ高まっています。

日本では、輸出がわずか半年で43パーセント減少しました。

中国では、輸出が33パーセント減りました。

東南アジアでは、ASEAN諸国全体のGDPが2008年に約13パーセント縮小しました。

世界的不景気でアジアでは2009年、貧困層の人口が6200万人増加すると、アジア開発銀行は予測しています。

国際社会はG20を通じて、こうした課題に立ち向かっています。

各国政府はG20を通じ、金融危機の影響を和らげるべく総額で2.5兆米ドルに近い経済刺激策で対応に当たっています。

このうち、米国自身の総拠出額である1兆米ドルに加え、本地域の各国政府による措置が、1兆米ドル以上を占めます。

日本と中国、韓国も大規模な財政刺激策を打ち出し、国内経済のみならず、重要な地域経済の支援を試みています。

国際社会はまたG20を通じ、新興市場を中心とした将来の金融危機に対処すべく、国際金融機関に1.1兆米ドルを提供する点で合意しました。

国際社会はこの他にもG20を通じ、あらゆる国の国益を妨げる保護主義の急増に立ち向かう点で合意しました。

本地域、及び世界の各国政府は、共通の経済的脅威に対処するにあたり、迅速、かつ断固たる姿勢で臨み、その団結の様には目覚しいものがありました。

協調的対応こそ最大の結果を生むということを我々は認識しました。

すなわち、我々は互いの協力をもって今回の危機に対応したのです。

1930年代の世界大恐慌発生時は、こうではありませんでした。各国は他国に被害を及ぼしても自国の国益を守ろうとしました。

各国が当時選んだ処方箋は、どの国にとっても利益とはなりませんでした。

大恐慌があれほど長期にわたり深刻なものとなったのは、国際社会が協力ではなく、国家主義的競争に走ったためです。

大恐慌は経済的に好ましくない結果を残しました。

各国は自らを守ろうとして、自らに害を及ぼしたのです。

また1930年代に蔓延った経済ナショナリズムの影響は社会、政治、安全保障面に及んで、世界全体にとり悲惨な結果を生み出しました。

しかし今回は有難いことに、11月のワシントン・サミットでも4月のロンドン・サミットでもこれとは異なる対応が見られました。

世界中から各国政府が集まった最近のロンドン会合では、経済回復へ向けた世界的戦略が共同で打ち出されました。

G20は、先進国と新興国が一堂に会する場です。

G20諸国・地域は全大陸・主要地域にまたがります。アジアの5カ国、アメリカ大陸の5カ国、欧州の5つの国と地域、アフリカを含む他の地域から5カ国、またイスラム教国家として最大人口を抱えるインドネシアも含まれています。

G20は、戦略面と経済面における現在の勢力と将来の勢力との仲立ちをする組織です。

効率性を追求できる程に小さい反面、正当性を確保できる程に大きな枠組みです。

G20諸国・地域は世界GDPの75パーセント、世界貿易の85パーセント、世界人口の3分の2を占めています。

ここにはアジア太平洋地域の全経済大国が網羅されています。ロンドン会合には、ASEAN代表も参加しました。

ロンドン・サミット出席者として私が感銘を受けたのは、今回の経済危機においてG20各国が示した透明性と協力の度合いでした。

共通の利益のために協働しようという集団的決意の強さには、特筆すべきものがありました。これこそ優れた世界規模のリーダーシップです。

こうしたリーダーシップは、G20が参加国・地域を通じて、より広い国際社会の声を聞く上で発揮されています。これは政策立案のアイディア募集や、強力な行動計画のための政治的合意の形成、合意された行動目標に対する支援の提供において必要です。

現段階では、まだやるべきことが数多くあります。

ですから、世界経済危機への協調的対応を継続させるために、9月にピッツバーグで開催される次回G20サミットを、私は楽しみにしています。

これは無論、国際的経済協力の最近の例ですが、こうした協力はここ東南アジアでは地域レベルで、より広範囲の政策にわたりすでに実行されています。

東南アジアは1960年代、選択を迫られていました。

冷戦期に新たな独立国が歩みを始める中で、この地域の国々は未来に関する選択に直面していました。

この地域をいかに形作るべきか。国境を越え、平和と安定、繁栄への願いを支える地域をどう作るかという選択です。

本会議の開催国であるシンガポールを含む東南アジアの国々は、協力への道を積極的に選びました。共通の未来を共に作る道を選んだのです。

彼らは東南アジア諸国連合(ASEAN)を設立する道を選びました。

紛争や競争でなく協力を通じてこそ、全ての加盟国はさらなる幸福を実現できるとの考えがその根底にはありました。

先見の明ある指導者達による1960年代の選択の背後にあったのは、相互依存という考え方でした。その国の未来は、隣国の未来に依存する。したがって国家共同体を作れば、その参加国すべてが単独に行動する以上の恩恵を得られるというのが、この考え方です。

その優れた成果は周知のとおりです。

ASEANは、東南アジアの安定した戦略的土台作りに重要な役割を果たしました。創立前は、これとは程遠い状況でした。

こうした安定を通じ、加盟国は一層の成長を遂げました。また東南アジアの影響力が域内外に広がる結果にもつながりました。

今夜はこうしたASEANの優れた例を引き合いに、アジア太平洋の世紀におけるより広範な地域の未来について話を進めます。

ASEANの教訓から考えるに、我々は今、より広範な地域においての長期的選択を迫られていると思います。

地域全体の未来作りを一緒に行うのであれば、未来に必要な地域の枠組みを作り、より広範なアジア太平洋地域の未来の構築を積極的に行ってはどうか、というのがひとつの考え方です。

もうひとつの選択肢は、状況の推移に様子見を決め込み、それが安定を強化するか実際には安定を損なうかに関わらず、受身の姿勢を貫くというものです。

我々は事態を傍観し、経済や戦略上の変化や衝撃で国家間の関係が揺さぶられてもこれを受け入れるのでしょうか。それとも、未来において戦略的な緊張状況がやむを得ず起きたにしても、これに耐えられるような安定の拠り所となる組織作りを目指すのでしょうか。

20世紀の前半は各国が勢力を競っていたため、ナショナリズムがはびこり、その悲惨な影響を我々は目撃しました。

欧州の大国は、問題が起きてもこれを緩和すべき地域組織がもたらす恩恵に授かることなく衝突を繰り返しました。

その結果が、破壊的な紛争でした。

本地域について、我々は、人間の進歩の行き着く先は平和と繁栄であると、単純に思い込むことはできません。

我々は協力への道を選ぶのでしょうか? それとも紛争への道でしょうか?

協力への道を積極的に選ぶのでしょうか? それとも漂流したあげく、反対方向に流されてしまうのでしょうか?

我々は、地域全体の安全を目指した制度的枠組みを作ろうとするのでしょうか? あるいは従来の国家間緊張が進み、時に激化するのをただ受け入れるのでしょうか?

この選択を行うには、時間がかかるでしょう。

しかしこの過程において、我々はまず自らの未来の方向性について、どのような地域を2020年もしくはそれ以降に目指したいのか、域内で対話を始める必要があります。

まずは現状についての話し合いが必要です。次にどのような未来を目指すのか、またもしこの点に合意できるなら、地域全体の未来を実現する上でどのような手段が役立ち得るのか、話し合う必要があります。

歴史を見ると、協力は経済成長だけでなく、戦略的安定という恩恵をもたらしています。

我々は平和と安定に向け、真摯な努力を行わなければなりません。意思疎通や判断上の間違い、不慮の事態の可能性が常に高いためです。

協力や透明性、共同の営みが実現するのは、例外的なことです。自然な状態では、国家間は協力より疑念がベースになる傾向が高いためです。協力を強化しようという意識的な努力を絶えず高める必要があります。

東アジアにおいては、地域特有の他の力学も作用しています。

東南アジアの力強い成長は従来の戦略的環境上の相対的関係を変化させており、地域安全保障確保の問題をいっそう複雑にしています。

経済モデルの再構築化、及び経済再生における米国の力もまた、決して過小評価されるべきではありません。

また、中国が著しい成長を続ける中で、この国がいかに成長の原動力を輸出から国内消費へ移行するべきかという課題に直面している点も、過小評価すべきではありません。この問題は、東アジアの将来における経済成長の転換点となる可能性があります。

特に中国とインドの台頭が目ざましい中、主要国間の関係をいかに納めるかという問題は我々共通の未来にとって極めて重要です。

巧みな政治的手腕、とりわけ米国、日本、中国、インド間関係の巧みな取り扱いがより重要になります。

米国は過去50年間、アジア太平洋地域の安定を一手に引き受けてきました。こうした安定があって、域内の各国は繁栄を謳歌してきました。この安定が将来も続くことは、我々共通の国益となります。

しかし経済協力が当然のものではないように、戦略的協力も選択すべき類のものです。世界最大、及び第2の人口を誇る二国、世界最大の外貨準備高を誇る国、世界の三大経済国のうちの二国、世界の五大軍事大国のうちの三国がいずれもアジアに位置しています。我々の近隣では、実に多くの出来事が発生しています。

戦略、経済分野における地政学的な世界の中心は、今やこの地域に移動しています。

この地域の将来の安定は域内諸国だけでなく、世界全体に影響を及ぼします。

端的に言うと、21世紀の重要な歴史の多くは、この地域において書かれ、形作られ、実現されるのだといえます。

したがって我々は皆、地域及び世界に対し大きな責任を負っています。

域内に位置する米国は、予見可能な未来において、今後も軍事力と経済力、ソフトパワーの融合を通じて戦略面で最も強力な国家、影響力を世界に行使できる唯一の国であり続けるでしょう。

こうした米国の戦略的優越性は、安定を維持する上でこれからも重要でしょう。他の国も豊かさが増すにつれ、軍事的支出を増加させるためです。

この地域は戦略面で見て、今後静的ではなく動的な展開を見せるため、我々が将来直面する不確実性は一層増すと思われます。変化が急速な本地域において、我々は新しい様々な伝統的、非伝統的安全保障上の課題に直面するでしょう。

人口構成の変化や人口移動、環境の変化、エネルギー・資源面での圧力、公衆衛生への世界的懸念、大規模な移民の流れ、多国籍犯罪、テロなど数々の点を総合すると、紛争が起きる危険は減少よりは、むしろ増加すると考えられます。

また国家間紛争も頻度は減るとしても、その可能性が完全に消えることはありません。

大量破壊兵器の拡散は、テロリストの手に渡る可能性を含め、世界的懸念の高まる脅威です。

イランの核プログラムも、依然として懸念事項です。北朝鮮の2度目の核実験も、地域の平和と安定への脅威です。進行中のミサイル開発プログラム同様、北朝鮮の核実験は新たな挑発的行為です。

国際社会は声を合わせて、北朝鮮に向き合う上で共通の行動計画を打ち出すべきです。

国連安全保障理事会は、我々共通の安全保障問題において向こう見ずな行為に走る政権に対し、決意を共にして対処すべきです。

我々が直面する安全保障上の課題は、数が多くかつ複雑です。

本地域において、安全保障面での国家間の相対関係は静的ではなく流動的です。したがって複雑な安全保障上のアジェンダに上手く対処するためには、未来への積極的な共同作業を育むメカニズムについて、共に冷静に検討する必要があります。

流動的な環境に対処できるような、強固な枠組みが必要です。

摩擦を最小限に抑え、こうした摩擦が起きてもこれに対処できるメカニズムを生み出せるよう、対話や討論、協力の習慣化に努めるべきです。

戦略面での衝撃や断絶に対応できるメカニズムは不可欠です。

我々に必要なのは、インドネシアやインド、中国、日本、米国等、アジア太平洋地域の主要国指導者を一堂に集めた組織です。この組織には、将来直面する安全保障や経済、政治上の課題全体へ関与するためのマンデートが与えられるべきです。

こうした組織を持たない場合、戦略的漂流、さらには戦略的二極化が域内で起こる可能性が長期的に見て懸念されます。こうした二極化はどの国のためにもなりません。

現在、地域全体の政策全般を網羅するマンデートを付与された域内組織は存在しません。

私は昨年6月、長期的視点から「アジア太平洋共同体」を創設するよう提案しました。域内における経済、金融分野の統合プロセスの進捗を意図とした組織で、私はこれをこのように呼んでいます。

本共同体は、軍事面での透明性を含め、安全保障面において協力・協働の文化を育むものです。近隣諸国を警戒させるのではなく、安心感を与えるための情報提供を通じ、信頼の構築と安全醸成措置の確立を目指します。

この他に、気候変動や資源・食料の安全保障、バイオセキュリティ、テロ等、国家の垣根を越えた一連の課題における対話、協力機会の提供も目指します。

東南アジア国家の多くは異なる政治システムを有し、時に交戦状態にあったにも関わらず、ASEANは戦略的調和のための強力な基準を打ち出しました。アジア太平洋共同体においても、より広範な地域における安全保障共同体としての意識を将来的に強調することは可能です。

本共同体は、ASEANが主導した東南アジアにおける信頼と安全の確立、共同体構築等のプロセスを自然に拡大したものともいえます。ASEAN自体は無論、地域の中心に位置し続けると共に、将来のこうした共同体においてはその重要な一部となるでしょう。

アジア太平洋地域における既存の域内組織・制度は、全て貴重な貢献を行っています。ASEAN、APEC(アジア太平洋経済協力)、東アジアサミット、ASEANプラス3、ASEAN地域フォーラム等は経済その他の分野における協力強化にあたり、重要な役割を果たしています。

域内組織の将来についての地域対話の一環として、我々はこうした組織を通じて蓄積された経験を活用することができます。

リチャード・ウールコット氏のアジア太平洋共同体担当特使への任命は、こうした経験の活用を目指したものです。ウールコット特使はわが国の優れた外交官であり、20年前のAPEC創立時には、他の者と共に外交作業の多くに携わりました。この一年間は域内の首都を訪問し、本共同体の提案についての話し合いを重ねています。

ウールコット特使が域内諸国の政府、非政府機関との間で行ってきた率直かつ建設的な対話に対し、わが国政府は大変感謝しています。

特使は私にこれまでの報告書を提出しています。その主要な報告結果及び今後の可能性について、ここで簡単にご説明します。

まず第一に、各国は概ね、いかに地域の枠組みを通じて全ての国への利益を最良の形で実現できるかについての焦点を絞った議論には価値があると認めていました。

本共同体創設案に対して、どの国も見解を述べることに熱心でした。当然でしょうが、各国の考えは様々でした。

これは歓迎すべき点です。というのは、本構想の主眼は、将来をどうするかという話し合いを開始する点にあるからです。

第二に、現在の枠組みにおいて、すべての関係国指導者が将来の政治、経済、安全保障上のあらゆる課題について話し合える単独の場は存在しないと、各国は全般に認識しているようでした。

第三に、どの国も明らかに今以上の会合を望んでいませんでした。

組織の新設を望む声もありませんでした。

指導者にとっては、既存の一連の会合に出席するだけで十分大変なのです。

わが国の場合、すべての会合は出張、長旅を伴います。したがって私は心底同感します。

私は共同体提案の今後の展開、及び最終的結論について、完全にオープンな姿勢をとっています。この点はこれまでに幾度も述べましたし、特使も域内で発言しています。

わが国は、本件に関しこうあるべきという意見を持ってはいません。これは相応の検討を必要とする、複雑かつ重要な問題であるためです。

特使の報告が明快に結論付けていたのは、こうした話し合いに対する高い関心が本地域に存在するという点でした。結論に関して予め定まった見方や最終意見を持たない状態での、本提案の可能性の追求が望まれています。

私は今後数ヶ月にわたり、域内で関心の高い方々と本提案に関する対話を引き続き深めていく所存です。

今年後半の東アジアサミットやAPEC会合において、ウールコット特使による対話の成果を各国代表に個人的にお伝えし、彼らの意見を聞きたいと考えています。わが国はこの後、アジア太平洋共同体の可能性を追求する1.5トラック(半官半民)会合を開催するのを今夜ここに報告させて頂きます。

政府高官や学者、オピニオン・リーダーを地域全体から一堂に招き、21世紀の地域的枠組みの未来について話し合います。

これは我々にとり、域内対話を展開させる上で必然的な次の段階です。

なるべく多くの国のご参加を期待しております。

本地域やその未来、将来の平和と繁栄のために最大限活用する必要があり得る域内組織について、自由でオープンな討論ができればと思います。

議論の最中には、意見の不一致も起きるでしょう。

これは自然で、よくあることです。

実際こうした複雑な課題に、即座の合意を期待するのはおかしなことです。

私が本共同体の設立目標を意図的に2020年としたのはこのためです。ゆとりを持てる程に将来の話である反面、気持ちをひとつにするには遠くない将来です。

なぜオーストラリアがこうした提案を行うのかと、疑問に思う方がいるかもしれません。

答えは簡単です。

わが国は、積極的なミドルパワー(中級国家)外交に力を入れています。

わが国だけでは、自らの地域の未来を形作れません。

我々は、自らの貢献が独自のものであると考えてはいません。これは事実に反します。

シンガポールは巧みな外交と自らの貢献力を通じ、東南アジアの地域主義にとり欠かせない存在となりました。これは本会議が示すとおりです。

地域や世界の秩序に貢献する上で、国家は新しく明快かつ現実的な視点を絶えず持ちつつ、いかに国民やアイディアといった最良の資産を活用し得るのか。この点を考える上で、シンガポールは模範的存在です。

こうした伝統の下、私はわが国がより広範な地域の未来に関する国際的な政策論議に前向きの貢献を果たすよう尽力しています。

地域が変貌を遂げる中、いかなる戦略的目的も持たず、ただ傍観している訳にはいきません。

そうした態度は実際、危険でさえあります。

我々は決して、地域一帯にまたがるユートピアといった夢の如き理想主義を提示しているのではありません。

それどころか、わが国政府は安全保障に関して極めて現実的なアプローチを採っています。

21世紀の国際関係の現実において、グローバル化の進んだ世界で効果的存在感を発揮するには秩序立った深い関与を地域、世界レベルで行うことが必要になります。

オーストラリアはまた、長期安全保障に貢献する上での軍事協力および軍事面での透明性の重要性を強く信じています。

わが国がすでに十分強力な域内での防衛・安全保障関係の更なる強化に努めているのは、このためです。

同様にこうした理由から、わが国はほぼ十年振りの国防白書を発表しました。主権国家が自らの戦略的認識や軍事力を明確にしている場合、判断を誤る危険が減るためです。

本白書には、我々が世界をどのように見、将来起こり得る課題に対処する上でどのような軍事力を築こうとしているかが率直に綴られています。

ここでは、米国との同盟関係がわが国の安全保障政策の中心である点が明記されており、米国は本白書の対象期間である2030年まで世界で最も強力かつ影響力の高い国であり続けるとみなしています。

米国との緊密な同盟関係は、わが国安全保障の基盤であり続けるでしょう。

地域全体の戦略的安定を最も支えているのが、米国の継続的なプレゼンスであると、わが国は考えています。日本や韓国、オーストラリア等との様々な同盟関係や安全保障上のパートナーシップ、及び西太平洋地域における継続的な軍事プレゼンスを通じ、米国は本地域に関与しています。

オーストラリア政府は地域全体において、パートナー国との防衛・戦略的関係を今後も強化していくでしょう。

日本との間では、安全保障協力に関する日豪共同宣言が署名されています。

今年3月、李明博韓国大統領と私は豪・韓国間の国際・安全保障協力強化に関する共同声明をキャンベラで発表しました。

我々はまた、15年前の設立時と同様に、ASEAN地域フォーラムに積極的に関わっています。

また地域のパートナー国であるマレーシアやシンガポール、およびニュージーランド、英国との間で五カ国防衛協定を維持しています。

さらにロンボック協定が存在するインドネシアをはじめ、様々な国と二国間の安全保障関係を強化しています。

国防白書には、中国との安全保障対話拡大やインドとの防衛関係強化をわが国が望んでいる点が明記されています。

わが国の安全保障、戦略面での強い関心は、近隣地域を越えて広がっています。オーストラリアは無論海運国であり、海上権益を有しています。

我々はしたがって、わが国の長期安全保障におけるインド洋、及び太平洋の重要性に着目しています。またニュージーランドと共に、太平洋諸国とは特別の関係を維持しています。こうした国々とはとりわけ、域内でわが国と直接的関係の深い分野が影響を受けないよう極めて強力な関係を築いています。

同様にこうした島国にとってわが国は、戦略的に見て比類なき重要な存在です。太平洋諸国にとり、オーストラリアは経済発展上の極めて重要なパートナー国であり続けています。

国防白書には、域内外の広範なパートナー国との建設的な軍事関係確立を、わが国が望んでいる点が明記されています。

すべての国と同様、わが国は必要に応じて自国を守れるようでありたいと望んでいます。広範囲に及ぶ脅威に対して自己防衛できるようになることが、我々の防衛政策の土台となっています。

つまり航空及び海上の進入路管理や、近隣地域における将来の敵の活動阻止等、自国を防衛できるよう独立した軍事活動を行使する能力を保持しなくてはなりません。

また、透明性や協力といった確固たる基盤に対する信頼を構築しなくてはなりません。これは二国間でも、作戦活動を通じても可能です。

例えば、生憎と自然災害が特に起こりやすいこの地域においては、合同軍が協調して域内の大規模自然災害に迅速な対応をすることでも、これは可能です。

本地域では武力紛争より自然災害の方が人命に対する最大の脅威であり、こうした協力はあらゆる人々のためになります。

各国軍隊が共通の課題に対し、定期的に計画立案や活動を共同で行う必要もあるでしょう。これにより、将来の信頼・安全醸成や透明性確保のための措置が生まれます。

これらはすべて、効果的な地域組織を通じて実現されなくてはなりません。

最後になりますが、地域の安全保障を話し合う最良の場である本会議において、皆さんはこうした点に関し数日にわたる討論を行います。

本会議では、地域のトップレベルの戦略分野専門家や政策立案者の方々が会議を先導します。皆さんの前には課題が存在しています。目に見える現状を語るだけでなく、その先どう進むのか。現状への対応だけでなく、その先をどうするのか。これが皆さんの課題です。

次のより困難な段階に進むこと。未来における地域共通の利益のために、いかに前向きに現状に方向性を与えるべきかを考察すること。これが皆さんの課題です。

既存の地域協力における強固な基盤を、より発展させる必要があります。またASEAN創立の偉大な経験から、我々は学ぶ必要があります。

域内主要国の指導者を、一部ではなく、全員が納得できるようなひとつの対話の場に関与させる必要があります。

この地域は域内のあらゆる国民、いや世界中の全国民にとっての可能性に満ちています。この地域が長期的な二極化の道に走らないよう、積極的な行動を起こさなくてはなりません。

私がアジア太平洋共同体の対話に乗り出したのも、まさにこのためです。本共同体は決して短期的なプロジェクトではありません。

この実現には長い時間がかかるでしょう。本当に長い時間が必要です。しかし歴史を鑑みると、危険は、未来に対する新たな構想を展開することから生ずるのではありません。

行動や未来の予見、新たな戦略的現実の構築を怠った時にこそ、危険は生まれるのです。私は地域の未来に関しては、心底楽観的です。

しかしながら、我々が地域の未来のために共に行う選択に関しては、私は真の現実主義者です。

ご清聴有難うございました。

(原文は英語)